四人乗り、エンジンは350〜500a、時速最高一〇〇キロ、大きな修理なしに10万キ口走れ、販売価格二五万円というのが主な内容だった。この技術基準のもとに、各社で競争試作を行なわせ、最終的には一車を選んで、各社の共同体制で大量生産にもっていこうという、いかにもお役所らしい発想だったが、メーカー側は一斉に反発した。この程度の排気量でこんな高性能の車はつくれないし、二五万円という価格も無茶だというのが第一の理由。戦時下の統制経済ならともかく、この時代に各社の共同生産体制など論外だというのが第二の理由だった。しかし、このことが国内自動車メーカーにとって一つの刺激となり、三菱にあってもM氏ら社内の乗用車推進派に力を与えたことは間違いない。M氏は、新三菱重工が手がける乗用車は、先発組であるトヨタや日産と真っ向からぶつかるものをやるよりは、これらよりやや小型の、ヨーロッパで大量に生産されていた超小型車、すなわちミニカーがいいと考え、そのことを折りに触れて上層部に進言していた。当時、ヨーロッパでは、元祖国民車ともいうべき西ドイツのフォルクスワーゲン・ビートル(かぶと虫)より小型のミニカー市場が急速に成長しつつあった。西ドイツがロイト600、ゴゴモビル600、NSUプリンツ600など月産約二万五〇〇〇台、イタリアがフィアット500および600を月産約三万台、そしてフランスでも750台のシトロエン4CVや450aの同2CVなどに人気が集中しつつあるのを、M氏は海外視察でしっかりとみて来た。「若手を中心にわれわれの手で三菱の乗用車をつくろう」という情熱は、通産省があげたアドバルーンとともにこうした現実によって一層強固なものになったようだ。
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