私たちが「何かを食べたい」と思う気持ちは、どうして起きるのでしょうか。ここで、人間の「食欲」のメカニズムについて説明しておきましょう。私たちの食欲を支配する「食欲中枢」は、脳の中心部に近い脳幹の「視床下部」という所にあります。視床下部は、私たちが生きていく際に必要な機能や欲求をコントロールする中枢で、食欲をはじめ睡眠や自律神経、体温の調節などに関与しています。食欲中枢は、「満腹中枢」と「摂食(空腹)中枢」で構成され、満腹中枢は、視床下部の「腹内側核」という部分に、摂食中枢は「外側野」という部分にあります。食欲は、食欲中枢が体脂肪量の増減を感知し、食事の量を増やしたり減らしたりするメカニズムによって、調節されています。最近になって、体内に中性脂肪を貯め込む「脂肪細胞」が単なるエネルギー・タンクだけではなく、エネルギー代謝を調節する機能も持っていることが分かってきました。そのきっかけは、一九九四年に脂肪細胞が分泌する「レプチン」というホルモンが発見されたことにあります。レプチンは、脂肪細胞にどの程度、中性脂肪が蓄積されたかということを、食欲中枢に知らせる働きをしています。食欲中枢は、血液中に分泌されたレプチンの濃度をモニタリングし、それに応じて食事をするよう大脳に信号を送るのです。私たちが食事をし、脂肪細胞に中性脂肪が一定量蓄積されると、血液中に分泌されるレプチンの量が増え、それを感知した満腹中枢が食欲を抑えて筋肉の活動を促し、エネルギーの消費量を増やします。反対に、中性脂肪の量が減ってレプチンの分泌量が少なくなると、摂食中枢が大脳に信号を送って食事をするよう促すのです。私たちが日常的に感じる、「お腹がすいた」とか「満腹だ」という感覚は、食欲中枢から送られてくる信号を大脳が受け止めたサインと言えるでしょう。このように私たちの体内では、ほぼ一定量の体脂肪を蓄積することによって体重を維持し、飢餓状態に耐える準備を常に行っているのです。