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ギリギリまで歯は抜いてはいけない

ムシ歯になっている歯でも、できるだけ抜かないで、ギリギリまで残すように保存的治療を心がける、これがわたしたち歯科医たるものの正しい治療態度である。たしかに、ダメになった歯を抜いてしまうのは、治療するのに手っとり早いし、確実な方法であることほぼまちがいない。しかも、完全なムシ歯の治療は、目にみえないこまかい部分を手さぐりでしなければならないのだから、いってみれば脳外科にも匹敵する高度な技術と手間が要求される。だから、それならば、いっそのこと抜いてしまおうという安易な方法をとりがちなのだが、しかし、それは歯科医としては邪道で、正道はあくまでも高度な技術を要求される治療をすることなのである。人間がものをかむときには、たいへんな圧力がかかっているわけだが、その歯をささえているのが歯の根の部分である。だから、歯を抜いて根がなくなってしまうと、そのあとにいくらピッタリあった理想的な義歯をいれても、歯を抜く以前とおなじようにものをかむことは、もはや不可能なのだ。義歯の咬合効率は、天然の歯のそれと比較すれば、半減どころか、三〇パーセント程度にしかすぎない。つまり、義歯は絶対に天然の歯にはたちうちできないのである。ものが十分にかみくだけなければ、胃の負担は増し、消化器系統の疾患をひきおこす誘因にもなりかねない。しかも、歯というものは、顎の骨のうえにのった歯槽骨にしっかりと根をはり、ささえられている。ところが、歯を抜き、根をとりさってしまうとその部分の歯槽骨は無用のものとなるので、しだいに吸収され、なくなってしまう。つまり歯肉のもりあがった土手の部分がなくなってしまうのだから、将来、総義歯にしようと思ったときには、ひじょうにつくりにくくなるわけだ。だから、もしムシ歯が進行して、歯肉からでている歯冠の部分がすべて侵蝕されたという場合にも、根の部分の歯質のまわりの組織が健全であれば、根だけは抜かないで残しておくのが、歯科医としては当然の配慮なのである。根さえ残っていれば、それを土台にしてさし歯をつくることができるし、根を利用してつくった義歯は、かむ力もそれほど低下せず、またものをかむ感覚もちゃんと残るからである。しかし、そうはいっても、どんな歯でも残すべきだということには、かならずしもならない。抜いてしまわなければならないこともある。たとえば、いわゆる親知らずである。